自信は過信
絶好調だぜ
特に急ぐ旅でもないけれど、今日は特に気分がいい。心地よい風が吹き抜けていくこの感じ。道も順調で何の問題も見当たらない。あれ、もしかしてこのまま予定していた場所よりもさらに遠く、ずっと行ってみたかった場所まで今日中にたどり着けるんじゃない?なんて思ったんだね。よせばいいのに。まだまだ目的地までは距離は相当あるんだけれど、この調子だともしかして?よし、思い切って足を伸ばして行っちゃうか。なんていう余計な考えで頭がいっぱいになると、その思いがなぜかさらにワクワクさせるんだ。自分の中では最長記録達成だななんて思い出して、もう興奮状態に近いね。こういうのをライダーズハイとか呼ぶのかな。なんだか今日の俺は「いけそうな気がする」という、よくわからない自信に満ち溢れてくるね。実はこういう時が一番危ういのは、みんなはよく知っているよね。悪魔のささやきだよ。
もう着いたも同然
あともう少しで到着。ほら、思ったよりも早く目的地付近までたどり着いた。やっぱり「やればできる子」なんだよ。ふふふ。なんて思いながら、手前の道の駅で少し休憩しようとバイクを止めた。思いがけない幸せに満ち溢れたわたしは、そこで見るモノ聞くモノ触れるモノに新鮮な驚きを感じつつ、一人悦に入っていた。みんなキラキラ煌めいていたね。どちらかというと人見知りなのに、お土産物やさんのおばさんと無駄話を楽しんだりもしていた。もう、無敵モードだと性格も変えてしまう力があるみたい。予定したよりもまだまだ時間は十分に残っているし、しばらくはそこでのんびり過ごしていた。そう、あれが起こるまではすべてが順調だったわけ。なにもかも思い通り以上に何の淀みもなくことは進んでいったんだ。
災いは突然にやってくる
さてと、そろそろ日も傾いてきたし、あともう一踏ん張りするかと腰を上げて、バイクに跨がる。そこでも何の違和感も不調も感じなかった。いつも通りにエンジンをかけて、スタンドを払って、いざ出発と思った瞬間、あれが突然牙を剥いたんだよ。そう、ちょっとバイクが傾きすぎたなぁなんて思っているうちにそのまま「ガシャーン」と地面と友達になった。簡単に言えば、いわゆる「立ちゴケ」したんだ。その時に感じたのは絶好調の頭と微塵にも動かない身体の感覚がバラバラで、立て直そうと気がついているんだけど、なぜか身体が1ミリも反応しなかった。あれー?と思っているうちにゆっくりと倒れた。為す術もなくね。そうした緊急事態なのに真っ先に心配になったのは、さっき買った今日の晩酌のウィスキーの瓶が割れたんじゃないかなということだった。
振り返ると
晩酌の酒びんを心配しつつ転がっていたら、優しいお兄さんが二人でバイクを起こしてくれていた。なんと驚くことに、自分はバイクを起こそうとか自分が立ち上がろうとかそういう気持ちも起きなかった。幸いにも特にどこもケガはなく、二人のお兄さんに心配されつつお礼をして、こけたバイクをみたときに何が起こったかをそこで初めて理解した。酒瓶より何よりバイクはこけたら壊れるんだなと。今振り返ると興奮して気がつかなかっただけで、かなり体には疲労がたまっていたんだね。なんて日だ!それまでの絶好調は幻だったんだね。自分が自分に騙されたって言う気分だね。
すべては学び
特に疲れてもなく、不調でもないのに、こまめに休憩しろとか余計なお世話だと正直思っていた。そんなこと人に言われなくても自分が一番よく知っているよってね。でも実は何にも知ってはいなかったってわけ。ちょっとした興奮でとんでもなく勘違いするんだよ。良い子のみんなは絶対真似しちゃいけないよ。ちなみにウィスキーの酒瓶は無事でした。え、まだそれを言うかって?どんだけアホなんだよ。自分でも呆れたね。バイクを起こしてくれた二人のお兄さんがいろんなことを教えてくれたよ。今でも感謝しかないです。おかげさまで、なんだかんだ今日も無事に過ごしております。その節は大変お世話になりました。ありがとうございます。