他山の石

日々

記憶

覚えていることは、何も過去の衝撃的なこととは限らないね。ヒトの記憶は不思議なもので、おそらくは衝撃度よりもつい先程の記憶のほうが強力なようだ。すなわち、数十年前の衝撃的なことよりも、昨日に言われた些細な一言のほうがずっと覚えていたりする。単純な話、どれだけ過去の栄光のインパクトがあったとしても、それは思い出そうというきっかけがないと発動しないわけだ。それよりもさっき通りすがりに誰かを見かけたとか、冷蔵庫の中身から足りないものはなんだっけかということのほうが覚えていたりする。もちろん、例えば初めてお付き合いした人とか、その経緯みたいなものも忘れてはいない。けれども、普段からそればかりの記憶しかないわけではないね。おそらく生きるために必要なものだけ短期記憶として残る仕組みになっているのだろうね。数年と言わないまでも数ヶ月前の狩り場よりも、昨日の餌の方が大切だからだろう。

真実

それ故に、あなたの記憶はそれほど正確でもないということだ。せいぜい昨日のことぐらいは思い出せるかもしれない。けれどもその詳細はぼんやりとしていて、常にそれが維持できているわけではないね。おそらく数日前の夕食を思い出そうとしても、少し時間がかかるだろう。ましてや、昨年の同じ時期のあなたが何をどうしていたかなんて、もはや想像でしかない。そして少しずつの記憶の断片を拠り所として、今ここで思い出として辻褄をあわせた物語が生まれるだろう。あなたの真実という過去はそうやってその時々でニュアンスを変え、今ここで必要な部分だけアレンジされたものでしかないわけだ。だからあなたの記憶や体験をすべての根拠にするには、少し気をつけたほうがいいわけだ。そのままが過去の真実であり、それは揺るがない歴史として取り扱うには値しないことが多いからね。記憶としてはそれぐらいの価値しかないことを知っておいたほうがいい。

伝承

それぐらい過去のことを覚えているよりも、今ここに必要なことを記憶しておいたほうが生き残り戦略としてはより実用的なんだろうね。もっと言えば昔話はコミュニケーションのネタとしては役立つけれども、生き残る具体的な戦略にはならないということだ。だから若者に向けてのあなたのヒーロー話は受けが悪い。それは情報としては無価値だからね。ましてや成功した話など、そこから得られるノウハウは少ないわけだ。そのときはそうだったんだ、という感想しか言えないからね。そんなことよりも、今もなおミスをしてしまうポイントや、それでもなお、今は慎重にやっているといったもののほうが随分マシな話となる。それは今ここでも使えるノウハウだからね。自慢話よりも失敗談のほうが受けがいいのはそのせいだ。他山の石としてより有益な情報だからだ。なにか役立つ情報として後世に残したいのならば、成功話は不要だ。それはあなたの心の中だけにとどめて楽しむ物語としてこっそり持っていればいいだけなんだからね。