乗り遅れたバス
あと少し
ああ、もうあと少しだけ早く出ていればあのバスに乗ることができたのに、なんてとっても残念な気持ちになっている。しばらく待ってようやくきたバスに文句を言っても仕方がないので、ちょっと憂鬱な気分で乗り込む。偶然ながらも席は空いていたから座ることができた。けれど、さっきのバスだったら10分は早く着けたのになと、まだちょっと引きずっているね。目の前でバスが通り過ぎていったからこそ、あともう少しでという思いが強くなっているね。でもそんなことを考えている間も、バスは目的地へ着実に向かっているよ。
全ては通り過ぎる
とても静かな運転で心地よく、つい、うとうとしてしまった。ああ、もう着いたのかとバスを降りる。さっきまでイライラして憂鬱だった気分もバスの中に置いてきたようだね。バスターミナルの前の桜の木に見惚れている。ああ、今年の桜は早く散ってしまうなぁ、なんて考えながらね。そして10分遅れのいつもの電車に乗り込んで家路についている。もうその頃にはバスに乗り遅れたことなんてなんとも思っていないね。あっという間に感情は湧き上がってその瞬間は惑わせるけれど、逆にあっという間にどこかへ行ってしまうものでもあるってことだね。
あなたのために
うまくいけば心地よく笑い、ああ、あともう少しだったのにと悔しがり、出会った人の機嫌の悪さにオドオドする。その一瞬が生きていることそのものなんだよね。そうやって心に波風がたつことで単調な毎日に彩りを与えてくれているんだよ。本当はどうなっているかというと、すべてあなたの思い通りにことは進行しているね。乗り遅れたバスはきちんと目的地まであなたを運んでいる。それもあなた用の席も用意してくれている。苛立ったり残念がったり心地よくてうとうとしたりできるのは、その背景にはきちんと目的を遂行するシナリオ通りにあなたを支えてくれているからだね。振り返れば結局はなんてことない完璧な日々しかない。でもそれでは物足りないから彩りとしての心の揺れ動きさえも演出してくれているというわけだね。すべてにありがとうという気持ちにたまになるのはそういうことが少し垣間見えたときなんだよ。