温泉旅行
楽しいとき
楽しいときは多くのことを忘れているときだね。例えばゲームをしているときはそのゲームに夢中だし、ウクレレを弾いているときはウクレレの音色を味わっているし、バイクに乗っているときはエンジンからの鼓動や風や匂いを五感をフルに使って感じている。でもそう長くは続かない。なぜなら、ふとやり残した仕事のことを思い出したからだね。ああ、これが終わったらこうしてああしてなんて段取りを考え始めていたりする。そして楽しい時間はなんでもない苦痛の時間に変わってしまう。どうやら楽しいときには大きな条件があるみたいだね。それは今を味わっているということ。決して過去や未来を考えないこと。でも真面目なあなたはすぐに明日の仕事の心配事を思い出して台無しにしてしまっているね。
仕事モード
ずっと楽しみにしていた週末。久しぶりにお気に入りの温泉で一泊旅行。懇意にしている宿のおもてなしの食事に舌鼓を打ちながら、軽くビールを一杯。うん、これこれ。やっぱりいつきてもうまいね。なんて嬉しくなっていた瞬間に、仕事のメールの通知が見えた。その瞬間に週明けのことに場面が進むね。それでいつものように台無しになる。もはやさっきまでの至極の時間はずっと前の過去のものとなり、今は来週の打ち合わせの段取りに夢中になっているね。せっかくの風光明媚な窓の外を見てはいるものの、あなたの頭の中は会社のホワイトボードでいっぱいになっている。そうした時間を過ごせば過ごすほど、来週の仕事が複雑でうまくいかないことを懸念し始める。もう温泉旅はここで終了したも同然だね。
旅の思い出
しばらくして、もうどうにでもなれと諦めたときにあなたの風景は再び至極であった温泉宿のシーンに戻るね。ああ、せっかくの料理が冷めてしまった。それを頬張りながらなんとかさっきまでの至極の時間を取り戻そうと躍起になっている。けれど、二度とその時間は訪れないね。仕方がないのでもう一度温泉でも使ってのんびりしようとしても、せっかくの温泉につかりながらさっきの話をあれこれと反芻している。もはや、自宅にいるのと変わらないどころか、自宅なら検討したい資料をすぐに見られるのにと今度は旅行そのものを後悔し始めている。だから楽しい時間は、どこにいるとか何を得るとか何をするとかとは全く関係がないこと。あの頃はよかったとよく思い出話を耳にするけれど、いい加減気づかないとね。あの頃がよかったわけではなく、今にいた時間が楽しかったんだとね。それは楽しいことをやっていたからとは全く関係がないね。そうではなく今を楽しんでいるから、たまたまやっていたことが楽しかったとなるんだよ。