煙の中からぼわっと
周り道
いつものように決まった道順であなたは家路についている。その時にふと立ち寄ってみようと思う場所が心に浮かんだならばまずはそこへ行ってみるといいね。行ったところでなんてこともなくガッカリするかもしれない。けれど、それは行ってみての体験だからそれでいい。でも、いつものあなたはそういう思いがよぎったとしてもほとんど相手にしないね。ちょっとした好奇心はチャンスだと思ったほうがいい。もちろん全部やろうなんて思わない方がいいけれどね。ちょっと気が向いて余裕がある時は足を伸ばしてみよう。そうして得た体験はほとんど時間の無駄であり、徒労かもしれない。けれどすべてをひっくるめてあなたの世界の材料となっていくね。
いつもの道
ところで、いつもの家路についているあなたは、工事現場に立っていた塀が取り払われている一角を見つける。ああ、長らくかかっていた工事が終わったんだなと。でも、どうしても思い出せないのはそこが元々何であったのか、ということだね。しばらく塀に囲われていた場所は、そのもっと前、工事が始まる前の風景をいつも、何度でも見ていたはずなんだけれどすっかり記憶から消え去っている。もちろん今は便利でストリートビューなんかで確認することができるね。ああ、そうだと思うこともできるけれど、でもあれだけ通い慣れた道の風景がこれほどまでにすっかり思い出せない。それは老化が進んだせいか、それともあなたがみていたのは違う世界の道なんだろうか、なんだか狐に包まれた気持ちになっているね。記憶が揺るぎないあなたを作っているというのにね。
意識世界
結局、無意識に過ごしている時間がほとんどだということだね。確固たる信念とか、執着している何かとか、こうあるべきという規範とか、それはほんの瞬間に生まれては消えていくものでしかない。あなたという存在はその瞬間だけ強烈に浮かび上がっているけれど、やがて消え去っている。意識活動そのものがあなたを生み出し、そしてあなたはそれが間違いなく人生だと思っている。けれど、その意識とやらは24時間も出現したことはなく、せいぜい長くても半日ぐらいで必ず一旦リセットされるね。そう、毎日何もなければ眠っているはずだね。眠っているときにもあなたはそこにいると認識する連続した何かが存在すると思い込んでいる。それはリセットされても前回までのあらすじがそこにあるからだね。前回までのあらすじも結構いい加減だから、いつもの道もあやふやな記憶でしかないわけだね。あなたが全ての拠り所としている意識世界なんて不安定なものは、あんまり信じすぎない方がちょうどいいってことだね。