枕
依拠するもの
あるものをないと言ったり、ないものをあると言ったり、どこまでもいい加減で信じがたい。とてもじゃないけれどそんなのを基準にするのは心もとない。そんな現れては消えを繰り返しているような不確かな存在をすべての根拠とするのは無理な話だね。あなたも特に反論がないね。そんな幻みたいなものに軸足を置くなんてそりゃ無理な話だと納得している。でもね、この話はまさにあなたのことなんだよ。そう言われるとあなたはみるみるうちに不機嫌になる。人をバカにするにもほどがあるってね。あなたは確固たるあなたここにあって、生き様も信念もその拠り所とする考えもエビデンスを最重要視する科学的、論理的思考のセンスも人一倍磨いてきたつもり。なのに、なんだその言われようは、と憤っている。なるほど、で、悔しいその思いはどうして生まれたんだろうね。
どこに?
さて、あなたはあなたの人生をこれまでも、そしてこれからも一つ一つ丁寧に大切に過ごしていこうと思っている。偉くなくとも正しく生きたいと思っている。その正しさとは己が信じる道であって、他と比べるものではないけれど、できれば社会とも調和を保ちつつ、さらに言えば規範となる存在として周りに役立つような人格者になりたいと願っている。願っているということは今はまだ修行の身なので道半ば。半人前という自覚はある。ちょっとカッコつけすぎだけどそんな生き方をできれば続けたいと思っている。さて、これらすべてにあなたの幻が凝縮されているね。そもそもあなたの人生なんてどこにもないのにゴールやあるべき姿や目標があると信じている。確固たる人格者とかどこにもいない何かにあなたはなろうと努力したり目指したりしている。人生は修行でもなく、ましてや半人前とか意味がよくわからない概念を持ち出して、おそらくなんだかよくわからないあなたの自慢をふっかけようとしているね。ほら、すべてどこにもありもしない話ばかり言っているよ。さらに悪いことにその自覚さえないね。
信心
あれほどダメだと伝えたにも関わらず、木彫りの仏像とやらを大切にしたりしている。単なるデザインとして好き嫌いはあるだろうけれど、それは特別な何かではなく木材でしかないね。木材は薪として燃料にしたり、家を建てる建築材にしたり、細かく砕いて紙にしたりして生活品として長らく重宝してきた。それ以上でもそれ以下でもない仏像を特別扱いするのには、なんの理由があるのかな。仏のような彫刻がされているだけであなたはまたありもしない何かをそこに出現させているね。また、ないものをあると言い出したりしている。そんなあなたが信じる人生とやらも、一体全体存在するのかな。そう、あなたは強く信じた塊でしかなく、確固たる何かではないね。ただこの場にふっと浮かんだ思いみたいなものなんだよ。だからこそ、この瞬間が愛おしく素晴らしく奇跡なんだね。もうすぐ消えてなくなるね。ほら眠くなってきた。今日のあなたはこれで店じまい。おやすみなさい。あ、その仏像とやらは枕にちょうどいい塩梅だから貸しておくれよ。