ステージ

日々

スポットライト

ステージの上にたってスポットライトを浴びると、周りが何も見えなくなるね。目の前の大きな光源があなたを照らして、あなたの足元の一部がよく見える。目を凝らして外側をみてみると、うっすら気配を感じ、人がぼんやり闇の中でうごめいている。そう、いつも見ているあなたの景色はスポットライトがずっとあなたに当たり続けている状態で見ている。それでもあなたはステージの向こうにいるはずの観客に向かってあなたの考えを語り続けている。手探りながらもその反応を確かめようとして全身全霊で雰囲気を感じ取りながらね。

暗転

舞台装置が動いて、スポットライトが消える。そうすると一瞬何も見えなくなるんだけれど、だんだん暗さに目がなれてくるとさっきよりは観客席が見渡せるようになる。そこであなたはいろんなことに気づくんだけれど、一番衝撃を受けるのはあなたが想定していたよりもそこに人影は見えないね。あら。こんなにも誰もいなかったのかとショックを受ける。逆にいつもの見知ったメンバーはきちんとそこに見える。ああ、来てくれているとほっと胸をなでおろす瞬間でもあるね。それを感じ取ったあなたは、次の舞台ではより雄弁に語ることができる。だって、最初は見知らぬ人がたくさんいるかもしれない状況の中である程度の緊張感を持って手探りで話していたからね。いつものメンバーならあなたもリラックスして語ることができるよね。

カーテンコール

プログラムが終わって、ステージ照明が全部つき、客席の照明もつくと、ぱっと昼間のように明るくなる。そのときあなたはつぶさに観客席を見て再び驚いた。いつものメンバーはほんの少ししかいなくて、殆どが全く見知らぬ人たちがあなたをずっと見つめていたことに気づいたからね。もうプログラムは終わったんだけど急に緊張が走る。「知らぬが仏」とはこういうことなのか、なるほどと妙に腑に落ちているね。あなたがよくわからないと思っていた多くの人たちが、実はずっとあなたの話に耳を傾けてくれていて、あなたが見えないところでそっとあなたのそばにいてくれていた。ああ、大きなからくりがわかった瞬間にあなたはあなたという区切りすら溶けてなくなる一体感を感じているね。そしてステージからあなたは消え、ステージすら消え、あなたがそこにいたということすらも消えてなくなった。