わたしとあなた
境界線
あなたとそれ以外をわける境界線を探してみる。けれどそんなものはあるようでないからはっきりとは見つからないね。細胞一つ一つもあなたなんだけれど、髪の毛はハサミで切り落とすことができる。切り取られて床に落ちた髪の毛は確かにあなたのものだけれどもあなたには含めない。あなたにまだくっついている髪はあなたとカウントするからね。爪も皮膚とかの新陳代謝なども同じ扱いにしている。なら定義はあなたに何らかの形で肉体的にくっついているところがあなたとなる。でも新陳代謝のスピードは思っている以上に速く、毎秒数百万という単位で行われている。すなわち、こうしている間でも2分間でおよそ2億5千万の細胞が死んでいるわけなんだ。
臓器移植
あなたの細胞は目的別に実にうまく器官を形成することができる。もちろんそれには名前が書いてあったり外見的なあなたらしさはないけれども、細胞一つ一つにあなたであるという情報を持っているとされているね。それをうまくコントロールして臓器移植なんていう技術を人類は手にした。さて、あなたがドナーとなり臓器提供したその臓器は見知らぬ誰かの体内で正常に動き出すとして、それは一体あなたなのかな。仮に細胞を少しずつ入れ替えて行った時、どこぐらいまで入れ替わればあなたは入れ替わるのだろう。仮にそんな実験ができればあなたの謎が解明できるかもしれないね。
パターン
自分探しなんていっとき流行ったけれども、そもそもあなたはあなたとそれ以外の境界線を引くことができない。およそ7年間であなたの細胞はすべて入れ替わるとき、同じように慎重にコピーしているからずっとあなただと安心していただろう。けれどもそれは近年の研究でどうも怪しくなっている。というのも、きちんとした設計図で作成されていたと思っていたけれども、状況や環境で設計図には載っていない部分が含まれていることがわかってきたからだね。さてあなたはどれくらいDNAの設計図どおりにできているのだろうか。言葉を操るようになって以来人類は二元論的な認識はできるようになった。けれどこうした現実的なグラデーションというか曖昧な判断が未だに苦手だね。あなたとわたしとか生と死とか実際の世界ではっきりと決まっているわけではないとすれば、あなたは本当にあなたなのか。あなたのパターンみたいないものであなたらしさをなんとなく感じているだけかもしれないね。