紙切れ上司
戦略と戦術
うまくいかない大抵の組織で言われて久しいのが、戦略ばかりを思案してしまうがために戦術がおろそかになることだね。ムリ・ムダ・ムラを日常業務からなくしていこう、というスローガンを掲げるのはいいけれども具体的にそれを実現するための「実行可能な方法と対策」が提示されない。するとそれぞれがそれぞれの「部分最適」を行ってしまい、結果として全体的に「ブルシットジョブ(くそどうでもいい仕事)」を増やしてしまう。戦略から現場が戦術をたてベストを尽くした結果が、前のほうが良かったとなるのは誰も救われない。しかも不真面目でそうなったわけではなく、個々は大いに取り組んだ結果がマイナスなんだからね。そこでいかにリーダーの役割が組織にとって重要かどうかが問われるわけだよ。
抽象と具体
人類が文明社会を生きるようになってから以来、その理想像を組織形成で実現してきた。ところが最近ではその軍隊から派生した組織からもう1段階進化しようとしている。最近流行りのDAO(分散型自律組織)なんかがそうだね。あるいは随分も前からいわゆるツリー型の組織構成を排除したり、縦割り行政を改善しようとしたりと組織のあり方、ひいては協力体制のあり方を模索してきたとも言える。やっぱりリーダー、ないしは何らかの取りまとめ役、旗振り役を立てたほうがうまくいくことが多いという経験則と、そもそも生まれて初めて体験するのが学校というのもあって、先生と生徒という上意下達が原則である組織だということもあって、なかなか上司は偉いというよくわからない常識から脱することができない。ようするに上司が抽象化したルールをざっくりと部下に伝え、有能な部下はそれを具体化して実行することで上司の希望を叶えるという構図に慣れてしまっているわけだからね。
理想と現実
言い換えれば、現状の問題点を論ってなんとかしろと命令する上官の理想を、現実的に可能な改善策を立案・実行することで実現するのが部下の役割だね。だから上官に置かれたそれまでなんでもなかった人は、見よう見まねで理想を語り始める。具体案はそこで一緒に考えないほうがむしろ上官っぽいからね。とにかく成績を倍にしろとか、効率をさらに上げろとか、売上をもっと上げろとか言うしかなくなるわけだ。でもそれにはいろいろな条件が不足しています、と部下から報告があれば、直ちに改善せよと空虚な命令を下してしまうわけだね。そもそもそうなっていないのは、先達である上官が原因なのにそれを若手に押し付けている。本来の組織の役割とは、自らが達成できなかったことを未来の若者たちに託すという装置であった。それも悪用すればこうもたやすく退廃してしまうわけだ。上官の役割が理想のルールを常に伝達するだけという部分に着目すれば、それを全体のルールに組み込んでしまえばいいじゃないと考え始めたのが先のDAOだね。そうすると上官は存在しなくても全員が部下として戦術を実行できるというからくりだ。理想を言うだけの上官はやがてスローガンというポスターにとって代わり、現代のITテクノロジーではブロックチェーンに取って代わりつつあるんだろうね。