窓の向こう

日々

雨音

今日は雨だからあなたは部屋の窓から向こう側の様子を見ている。雨粒が窓ガラスを文字通り水玉模様に飾っている。なんかの拍子に、あなたの耳にしとしとふる雨音が聞こえた。それはあれこれとやり残したことを考えるのをやめたときだった。ずっと雨音はしていたはずなんだけれど、その音はそれまで全く聞こえなかった。おそらく正確にいえばずっと耳の鼓膜を揺らし続けていたんだろうけれども、あなたの心の雨音のほうが大きくて聞こえなかったというべきだろう。それぐらいあなたの心はずっとあれこれと考え事の雨が振り続けている。いつからそうなったのかも覚えてはいないね。

生れ出づる悩み

物心ついてから、ずっとあなたは無数の悩み事ばかり抱えて生きてきた。それまでは何もなかったのだろうけれども、もはやその頃の記憶さえない。段々と成長するにつれて自我が芽生え、他人との関わりのいざこざや煩わしさに惑わされ続けた。大人になってからは、主に仕事をどうすすめるか、どうしたらうまく成果が出せるのかという宿題をいつも抱え、なにもかも思っていたシナリオとは全く違うストーリーを展開してしまい、その修正に追われる日々だった。歳を重ねるごとに、友人が体調を崩して入院してしまい、そのお見舞いでその現実を目の当たりにして、明日は我が身と驚愕した。そういえば頭の中はそういう考え事でいつも満たされて、今年はもう夏が終わったのかと、ツクツクホウシの鳴き声を聞いたことすら覚えていない。いや本当は鳴いていたんだろうけれども、雨音のように全く気がついていないわけだ。

考え事

あなたは考え事をするために生まれてきたのだろうか。おそらくこれまでのほとんどが、考えたところで仕方がないことばかり考えてきたね。そしてどれほど悩み考えたとしても、現実は何も変わらなかったことばかりだったはずだ。それなのに考えても仕方がないことを未だに抱えきれないぐらい持ち続けている。そんなことよりもこの世はすべて奇跡の瞬間でいっぱいなのにね。今は外の雨を見ている。雨が降れば草木も濡れる。すべてが雨に濡れている。あなたは部屋の中にいて濡れているそれらを眺めている。けれどそうやって心の中は目一杯のゲリラ豪雨がいつも襲ってくる。ほら、今もやり残したことを急に思い出した。外をぼんやり見ている場合ではないと、あなたの心の中は暴風雨に見舞われて、また外の雨音が聞こえなくなってしまった。