月夜烏

日々

月明かり

まんまるな月を見てあなたは何を思うだろう。都会の真ん中で首尾よく区切られた四角い街をいつも歩いている。そのちっぽけな区切りの中で夢や希望を語り、自己実現を目指し、損か得か、勝ちか負けかで日が暮れている。日が暮れたあと、ふと空を見上げると見事なまでのまんまるな月が、そんなあなたを照らしている。その月はあなたに微笑みかけているだろうか。それともあざ笑っているように見えるだろうか。あなたの心の模様がまんまるなお月さまに見事に描き出されて見える。そう、いつかの北アルプスの山間で見上げたあの月のように。

意識

息も絶え絶えで重たいリュックを背負って一歩一歩山頂を目指している。山頂にたどり着いたとしても特に何かもらえるわけではない。しかもそれはあなたが決めた工程でもルートでもなく、ただひたすらに決められた通りにしているだけだ。それでも引き返すわけにもいかないから、休憩の頻度は多くなるものの必死に前を向いて進んでいる。そうこうしているうちに意識も朦朧としてきて、もしかしたらここで人生は終わるのかもと感じ始めた。重たいリュックがあなたを崖下に引き込もうとする。それに負けじとあなたは上へ向かっている。体力が消耗しているのがよく感じられる。人の限界とはこういうものかとぼんやりと見えてきた。もし後ろにひっくり返ればずっと下に滑落するのかと見てみたら、月明かりで随分先まではっきりと見えたことに驚いた。

虚無

漆黒の闇の中で、月明かりが眩しい。さらに月明かりのせいでライトがなくても稜線が見える。足元ははっきりと見えて十分危険も回避できた。そしてその先のゴールもくっきりと見えたせいで、あなたはあと少しという思いを奮い立たせてさらに前に進むことができた。あれほどまんまるで明るい月が徐々に小さくなって、空が黄昏色に変わりつつある。日の出が近いことがありありとわかるのは、もうその姿が見える前からひしひしと巨大なエネルギーを感じられたからだ。そして目的だった山頂でのご来光をじっと見ていた。月とは雲泥の差のパワーを持つ太陽を拝みつつも、さっきの月でさえこのエネルギーで光り輝いていたことを再確認した。そこにはでっかい自然がむき出しのままあるだけで、本当はあなたはどこにもいなかった。月と太陽が入れ替わるシーンの中に、完全に溶けこんで消えていた。