おすすめのメガネ
あなたにぴったり
世の中に溢れる情報は、こうした方がいい、ああした方がベスト、あなたにおすすめなのはこれ、というようなものばっかり。幸せになるならこれ。これで決定。というものが山ほどあって、言われた方もいっぱいありすぎてどれが正しいの?と迷うほどたくさんある。情報の渦にぐるぐる揉まれてもはや溺れかかっている。あの手この手でこれがいい。これが正しい、これが正解。これしかない。これを見逃すととっても不幸になるよと畳み掛けて脅かす。違うことを信じてやっていたことをひどく後悔して、ああ、なんて愚かなんだと自分を責めたりして目を閉じる。
おすすめのメガネ
迷える子羊たちよ、正解の扉はこちらです。これはもっと幸せになれるメガネです。少々お高いですが、高いものには理由があります。溢れる情報をこのメガネで見るとあなたにおすすめのものがよりくっきり見えるメガネです。ええ。もちろんいいものですから、私もかけてますよ。よかったですね。今気がついて。もう少し遅ければ手遅れになってましたよ。よかったよかった。私がかけているメガネを提供できてとてもうれしいです。また一人、将来の幸せを与えることができたのですから。そう言って感じのいい笑顔で手渡してくる。いい人は笑顔でいつも近づいてくる。メガネをかけて見えるものたちを手に入れるには、ちょっと無理をしなければ届かないけれど。
目の前がぱっと広がる
そうして無理をしてようやく手に入れた、いろんなもので囲まれた生活なんだけれど、なぜだか目がクラクラする。せっかく手に入れたのに、またしばらくすると別の笑顔の人が歩み寄ってきて、それはもう古いですよと言う。いつのまにか度があってなくて、作り替えた新しいメガネをかける。笑顔の人に言われた通りにしておけばいろんなものがまた違ってよく見える。もうメガネを手放せない。だって外したらまた逆戻りするような気がするから。笑顔の人がかけているメガネから見える景色が日常になる。もうメガネなしでは何も見えない。
もっと度数が進んでいく
もっともっとと求めるのは、もっともっといいことがあるはずという思いからきている。そう、初めからいいもの、悪いものという前提がそこにある。いいもの悪いものと分類しなければいけないのは、いいものの方が得だから。より幸せになれるから。便利だからといろいろあるけれど、そもそもその先にはなにがあるかというと、よりよい人生を送るため。幸せになりたいから。だからいつも注意深く何かと比べている。結局は今幸せじゃないから、今ここにないものを夢見ている。もっともっとというメガネをかけて自分を見てみると、今ここにあるものは全部いけてないものばかりに見える。ああ、大変。またメガネを作り替えないと見えなくなってきた。
メガネを外すと
もっと幸せな未来が見えるメガネは欲望を大きくする。また度が変わってクラクラしてきた。どんどんすぐに合わなくなってしまう。ちょっとメガネを外して目を休ませよう。すると、未来ばかり見えていたメガネから、未来がなくなった。遠くは見えなくなったが近くの足元をみるとキラキラはしていないけれど自分の足がちゃんと見えた。ああ、今まで忘れていた感じ。それは今もそんなに悪くない。薄汚れた靴が見えるけれど、なんだかんだで今までちゃんと歩いてきた靴。
うずまく欲望の街でクラクラしていたけれど、笑顔の人がすすめてきたメガネを外せばそれも治った。誰かのおすすめのメガネはもうやめて、ちゃんと自分のメガネを作ろう。そうしよう。