トラベルにはトラブル
試される大地へ
初めて北海道にバイクでツーリングにいった。試される大地に降り立ってみたものの、右も左もわからずとにかく今夜泊まる宿を求めて函館から道央へと向かっていた。函館から上陸すると目指す方向は限られているし、その日のうちにたどり着ける場所もほぼ決まってくる。そこで定番中の定番である大沼あたりを目指して走っていた。大沼公園付近に到着してそろそろテントの設営とか買い出しとか色々あるしと思ってふらふらしていた。さすがに緊張していたのかちょっと疲れて道中のコンビニに立ち寄った。
初めてツーリングライダーと出会う
コンビニで今夜の晩酌の焼酎とつまみを買っていたところ、CB400SFに乗る青年と目があったのでどちらからともなく「こんちは」と話しかけた。特に意識もしてなかったけれどかわす会話はお決まりのようだ。「今夜はどこまでいくのですか?」と。「この辺のキャンプ場で一泊しようと思ってます」と伝えると、それじゃぁ旅は道連れということで一緒にキャンプ場を探すこととなった。とは言えお互いに初めての北海道だし、大した知識もなく、大沼あたりに向かおうという流れになって、それまで一人で走っていたのが二人で並走することになった。しばらくして第一目的地である大沼公園についたけれど、残念ながら倒木で閉鎖されていた。そこで一旦目的地を失った私たち。そうこうしているうちにそこでまた見知らぬおじさんと出会う。おじさんはこの先に七飯の温泉があるキャンプ場があると教えてくれたので、初対面の二人はとりあえずそこへ向かうことにした。
行き当たりばったり
教えてくれたそのキャンプ場には夕方近くに到着した。当初の予定の何もない湖畔のキャンプ場とは違って、キャンプ場内に温泉施設も併設されていて北海道最初の宿としてはたいそう気に入った。そういう突然の出会いの連続を楽しむ余裕も少しずつできてきた。さっそく温泉が午後7時までということで、お互い急いでテントを設営する。なぜかちょっと離れて。今で言うところのソーシャルディスタンスである。ひとときの団体行動ではあるが、互いのプライバシーは尊重するというかそんな感じである。そこで買ったばかりで設営したこともないテントを急いで設営するのだが、聞けばお互い初テント設営であった。なんとかこんな感じかと今夜の寝床の準備をした。
思いがけない出会いはつづく
すると一台の乗用車がたくさんのキャンプ道具をつんでキャンプ場を彷徨っていた。するとキャンプ場の囲いの杭が折れて地中に埋まっていたようで、ちょうどそこに車の下の部分にマフラーか何かがひっかかって身動きとれなくなった。まるで甲羅を掴まれた亀のようだ。車に乗っていた一家は降りて、とにかく車の腹につっかえている杭から逃れようと右往左往していた。そこに当然我々も声をかけて手伝うことにした。車からたくさんのキャンプ道具を下ろし一旦軽くして、押したり引いたり持ち上げたりしながら何度も車を揺すってみるものの、思っていた以上に手強かった。そんなにたいそうなことじゃないだろうと気軽に手伝ってしまったが、結構手間隙かかってこりゃ大変だなぁとちょっと驚いた。そうなると知恵の出し合い。ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら、車を持ち上げたり地面を掘ったりしてようやく脱出に成功した。
何気ない祝杯
特に先を急ぐ旅でもなく、それぞれに余裕があったし、行きがかり上諦めるのもシャクだったのでなぜか自分ごとのように夢中になっていた。全く見ず知らずの他人のことなのにここまで無我夢中になって目の前のトラブルに対処するなんてちょっと意外な感じもした。そりゃ今の時代、レッカーなりなんなり連絡すれば解決するわけだし。でもなぜか原始的で道具も十分でないのに諦めなかった。若いお父さんとお母さんは何度も礼を言うが、なんてことなかった。それより最後まで諦めずに対処できた自分自身への満足の方が上回っていた。そりゃ一時は厄介なことに巻き込まれちゃったなぁと正直思ったが、本当に脱出できてよかった、よかった。心の底から自分ごとのように喜びを感じていた。
その後道連れライダーと温泉に入ってお互いのことを少し話しながら、でも深入りはせずそれぞれの夜を楽しんだ。いつもトラブルは突然やってくる。目の前のトラブルにどう対応するかだけが問われている。試される大地の洗礼を初めて受けた日の思い出である。旅の始まりに初めてのテントの中で、コンビニで買った焼酎で何気ない祝杯をあげた。人生はいつもそうありたい。