魔法の鏡
洗脳
洗脳の怖いところは、当人は洗脳されているとは微塵にも思わないことだ。つまり、他から見ると明らかにおかしいとわかることが、実はまったくわからない。だからそれを解いてあげようなんて言うのはかなり難しいわけだ。実はあなたもすっかり洗脳されているよ、と急に隣の見知らぬ人がやってきたらびっくりするだろう。でも多かれ少なかれあなたはこの時代背景にすっかり洗脳されているのは間違いないんだ。そんなことは宗教とか秘密警察とかそんなドラマの世界みたいなところでしか起こるわけがないと思っている。ならどうしてそんなにも他人の目を気にしたり、お金に振り回されたり、楽しくない仕事を続けているのだろう。変に思われないように自分のニオイを気にしたり、かっこ悪くないように髪の毛の形と流れを整えたり、不憫に思われないようにちょっと高価な服を着てみたりしていないだろうか。
同一
あなたにとって同じものがたくさんあるだろう。もちろん全く同じものは一つとないことは頭では理解できるし、そのとおりだと納得している。けれども、友達や家族は同じ「ようなもの」としてひとくくりにしている。見知らぬ街で出会う人もおそらくはあなたと同じ「ような」暮らしをしているだろうし、同じようであるからこそあなたは安心して街を歩くことができる。ところが、あなたが皆と同じように働いていなかったり、同じように学校へ行ってなかったり、同じように地位も名誉も得てなかったりしたらもう大変だね。どうしてこうなるのかとあなた自身の不憫さを嘆くことになる。子どもの頃に、隣のあの子も持っているからあなたもそれが欲しいなんて駄々をこねてなかったかな。もう悔しくて腹が立って欲しくて欲しくて仕方がなかったそれらは、今もあるだろうか。そのときにそれだけの感情を揺さぶった原因はいったい何だっただろうね。
鏡
毎日鏡を見て、今日もちゃんとした身なりになっているか、変なゴミが髪の毛や顔や服についていないか、きれいに洗った顔になっているか、そしてお化粧がちゃんと思ったようにできているかどうかを確認しているね。おそらく鏡を見なかった日はほとんどないかもしれないね。そうしてあなたは鏡のなかに語りかけている。けれどもそれが洗脳の第一歩だとしたらあなたはどう思うだろうか。あなたは単に鏡に映る何かをあなただと思いこんでいるだけだね。鏡に写っているのは鏡であって、あなたではない。ではあなたはそこに何を見ているのだろう。そしてそこに映るあなたのようなそれは、今日もそこそこイケてるわけだ。でも残念ながらなぜか幸せ100%ではない。常に何かしらの不満に押しつぶされそうになっている。だとしたら、本当のあなたは一体どこに映っているのだろう。