溶けてなくなるとき
雨降ってきた
例えばバイクで楽しく走っていると、突然雨が降ってくる。ああ。雨かぁ。どこかで止まってカッパを着なきゃと思いつつも、もう少し濡れちゃっている服の上からカッパを着るとちょっとジメジメして気持ち悪いのでできたらこのまま止んで走りながら乾けばいいのになぁなんて考え始める。あれこれ考え始めると着替えるのに適した場所を探そうとか、もう少しいけば止むんじゃないかとか、カッパ取り出すのにパッキングを解いて面倒だなぁとか言い訳しながら止まるのが面倒になってくる。思ってたように雨は止むこともなく、どんどんただ濡れていくだけになる。
一人芝居で怒り出す
ああ、あのときに止まってカッパ着ていればこんなに濡れることはなかったのに。何をやってんだ、もう。誰に対してかよくわからない怒りと後悔が湧き上がってくる。もうとことん被害が拡大してからやっぱり濡れた服の上からカッパを着込む。ほら、思ってた通りだよ。ぐちゅぐちゅで気持ち悪い。これカッパ着る意味あるのってぐらい不快感でやり場のない切なさを感じつつ、また走りだす。しばらく走りだすと予想よりかなり遅れて雨が止む。カッパはすでに乾いているのに中の服はまだすっぽりと濡れたままになる。
目を背ける
どうも都合の悪いことはちゃんと見ない癖があるね。実際雨が降っているのに、ただただ濡れているのににわかに信じないのはどうしてだろう。雨が降ればそのまま濡れる。それは誰にも起こることだし当たり前のことなのに、もう少ししたら止むとか、面倒だとか言いわけが先にぽこっと生まれる。でもそれは全くの希望的観測であって現実とはかけ離れている。目を閉じて走り続けているのと同じことになる。雨は止んでいる。ずっと止んでいる。服は濡れたまま。そんなこんなだから雨降る道中の景色なんて灰色一色としか思い出せない。何を見ていたのか。
自分がいなくなる瞬間
しばらくすると、雨上がりの雲の切れ間から、目の前にぱっと広がる大自然の景色が飛び込んできた。思わずため息がでた。すると体が勝手にバイクを止めて、しばらくその景色を眺めていた。気がつけば、さっきまで雨に濡れてうだうだ考えていたことなんてどこかに忘れてしまった。今ここの景色に溶け込んでしまい、文句たらたらの自分はどこにもいなくなった。雄大な景色だけがそこにあった。そして振り返ればずいぶん遠くまできていた。改めて自分がここにいるんだということがわかった瞬間。でもまたすぐにあれこれと考え始めちゃう。気をつけよう。