あなたの向こう側

日々

ずっと海の中にいる魚たちは、自分たちの世界が海中であることに気がつかない。おそらく釣り針に食らいついて引き上げられるまさにその瞬間に、海以外の世界を体験することになるだろう。人もまた同じで、海と陸と空があることを知っているだけで、そこが幸せに満ち溢れた世界であることに気がつかない。その世界から他の世界へと移り変わる瞬間にだけ、ああそこが幸せの楽園だったということに気がつくんだろうね。海の中での暮らしもおそらくは過酷な試練がたくさん起こっているだろうし、まさにサバイバル状態であることはあなたは知っている。ところが魚たちはそれを知る由もない。そう、いつも世界を外から見られることができる存在だけが、その状況を一番良く知っているということになる。

大抵は波が途切れることなく生まれていて、その波にもみくちゃになりながらも呼吸を確保するためにあなたは必死に海上に浮かんでいる。けれども、どんなに大きな波が海面で起こっていようとも、潜ってしまえばなんてことのない海水に満たされたいつもの海が広がっている。大波に流されそうになったとき、無理して抗うよりもその流れに身を任せた方が助かることは、海とともに暮らしている人たちは知っている。そんなときの海中は意外にも穏やかに感じられたりして、どうやって生き残るかのチャンスを与えてくれるからだね。海と陸の端境を知っているあなたは、激しい外界と穏やかな海中の両方を体験することができるわけだ。やっぱりそれも、海の中だけでもなく、海水面だけでもなく、陸地だけでもない世界を見ることができる存在だということを表しているね。

変化

風がなければ波は穏やかだ。その瞬間は海水面が空と同化する鏡のように変わる。きれいに空を映してまるで空しかない世界がそこに広がるね。そしてその風景はあなたからしか見られない。そう、それがあなただけの世界であると言ってもいい。その世界では、あなたを苦しめるあらゆることがいつも起こっている。でも、ほんの一瞬は息を呑むようなそんな風景を見ることができる素晴らしい場所にいる。でも、そんな場所に生まれてからこの方ずっといるせいで、ずっとそんな幸せな世界にいるなんて夢にも思っていない。この世はとかく生きづらく苦しい試練ばかりがあるだけだと思いつめている。あなたがあなたの視点で見ている限りにおいてはその世界がまさか奇跡だと言われたところでにわかに信じがたいだろう。だからこそあなたはあなたから離れることが大切なんだよ。