何を見ている
見ている
あなたは四六時中何かを見ている。現代社会では暇さえあればスマホの光を見ているだろう。その画面の光の点滅を見て、ずっとひどく心を揺さぶられているね。情報化社会の今日において、常に最新情報を知らないと生きていけないと思っているから、それを見るのをやめるなんて恐ろしくてできなくなっている。ある日そのスマホが新型になると言う。あなたはより高性能と便利さを求めて貯金を始めるだろう。それを手に入れないと世間から置いてけぼりになるからだね。でもこのチキンレースのような状況にちょっと疲れて夜空を見上げたら、あいも変わらず月が空に浮かんでいる。それを見るとなぜかホッとするのは、その月はあなたが初めて見上げた頃からずっと変わらず夜空にぽつんと光り輝き続けているからだね。随分と社会に揉まれてきたと思っているけれども、実は生まれたときから知るその月は何も変わっていないように見える。
見ていない
あなたはたまのご褒美だと思って、大切な人と高級レストランに来ている。目の前にはめくるめくごちそうが並んでいる。それらに舌鼓を打ちながらこの上のない幸せを感じている。でも急にあなたのスマホが光った瞬間、あなたはその幸せから引き離されてしまう。せっかく目の前には素敵なシーンがそこにあるというのに、あなたはそれらを見ているにもかかわらず、ちょっとややこしい入り組んだ相談に乗らざるを得ない状況になったからだ。ああ、せっかくのご褒美も台無しになっていく。確かにあなたは夢のような風景をその目で見ているというのに。そして手短にその電話を切って、今を楽しもうと席に戻ったとしても、二度とその幸せは戻っては来ない。なんだか気まずい雰囲気がその場に漂ってしまっているからだ。
ごまかす
単に見ているだけでは何も起こらない。そこにあなたの期待や思いが含まれることで途端にあなたは今そこから離れてしまう。せっかくの楽しみも間違いなく今見えている。見えているものはそれ以上には膨らむことはない。でもそれを見ているふりをして違うシーンをあなたは見てしまう。その瞬間に今そこにはいなくなっている。もしかしてあれがダメだったかと過去のシーンを回想し、それで言うとこうしたらうまくいくかもしれないとまだ見ぬ未来を行ったり来たりしているからね。でも、目の前の風景はそのままだし、最高に美味しい料理と大切な人は目の前に見えている。そしてふとレストランの窓の外に目を移せば、あいも変わらずなんにも変わらない月が見えている。それが見えていることが唯一あなたがそこにいることを証明してくれている。それだけで十分だと気がつけば、その場所はやっぱりとても幸せな場所に戻るね。