空っぽのかばん

日々

あれこれと入れていたはずなのに

結構色々手に入れてきたし、そりゃぁいろんなことを経験してきたし、とにかく苦労も多かったしそれなりに努力もしてきたし、いつもアンテナを張って最新の情報や技術も理解してきたつもりだよ。大分パンパンにつまった自分が手にしているかばんには、かなり色んなものが入っているはずだよ。ほら、こんなに大きなかばんでパンパンに膨らんでいる。いろんな困難をこいつと共に歩んできたからさ。これが人生の重みってやつかなとそのずっしり感を感じ始めている。この手にはそういう遍歴の重みを感じてちょっと誇らしげに感じているのよ。ほら、ちょっとしたいいかばんでしょ?

ちょっとかばんを覗いてみる

何が入っているのって?ちょっと自慢のかばんを開けてみるよ。もう自分の歴史と戦利品がいっぱいにつまっているからきっと開けたら驚くよ。そんなに見たいならちょっと見せてあげるけど、決して自慢とかじゃないからね。かばんを開けてがさごそ手をいれてみた。ん?あれ?おかしいな。何も手に触れない。一番ビックリしているのは、当の本人。脂汗が出てくる。いやいや、そんなはずはないぞ。外見はこんなにいっぱいにつまっているじゃない?何度も何度も鞄の中を探しても何も入っていない。ありゃ、しまった!知らない間に誰かにすり替えられたか。それとも中身をごっそり盗まれたか。やばい。どうして今まで気が付かなかったのだろう。いつも肌身離さず持っていたはずだからそんなことないはずなのに。

えらいこっちゃ

どうしよう、どうしよう。おまわりさん大変。かばんの中身を落としたか盗まれました。何がなくなったって?えと、今までの自分のすべてが気がついたらからっぽなんです。どこかで落としたのか。盗られたのか。心当たりをぐるぐる考えて今までのことを必死に思い出す。けれどいつどうなったかなんてどんだけ頑張って思い返してみても思い出せない。そもそも何がどれだけ入っていたって聞かれても答えようもない。おかしい。そんなはずはないんだけど。そういう思いばっかりが心を駆け巡る。もしかしてかばんのどこかに穴が空いていたのかな。そうやってかばんを隅々まで覗いてみるけれど、穴も空いていないようす。今までたくさん入っていて、手応えもあった大きなかばんの中身はいったい何が入っていたのだろう。不思議な思いだけが残っていた。そこにあるのはからっぽのかばんと絶望だけになった。

なんにも持ってない

何度も何度もかばんを覗き込んでもなんにもはいっていない。しばらくは放心状態になった。するとおまわりさんが見るに見かねて声をかけてくれた。たいそう立派なかばんをお持ちですね。それだけ立派なかばんなら少々のものでもしっかりと入りますね。そんなに気を落とさないでまた色々なものをそこに入れてくださいな。そのためのかばんなのですからね。

ああ、からっぽのかばんは「可能性」ってことか。パンパンに膨らんでいたのは、あまねく世界の可能性がそこに入っていたからなのか。そういうかばんを肌身離さずいつも持っていた。何も失ってはいなかったんだ。