思い出すのは今

日々

古ぼけたアルバム

あなたを撮りためたアルバムは、もちろんあなたのためだけにある。だから歳を重ねるとそろそろ処分でもしようかという気になるかもしれない。そこにはかつての今とは似ても似つかないあなたが収められている。もちろん、それはおそらくその当時のあなたであろうと思っている。でも、それを確かめる手段がどんどん時がたつにつれて失われている。かつての親戚のおばちゃんや、もうとうの昔になくなった祖父や祖母、もしかしたらあなたのご両親も含まれているかもしれない。同級生も皆元気に過ごしていたらいいけれども、そこに写っている皆がそうではなくなりつつあるね。そこであなたはこの記録は一体何の役に立つのかとがっかりしているかもしれない。でも今あなたは古いアルバムを見返しながらあなたの半生をそこに見ているわけだ。

過去は今生み出される

今のあなたと過去のアルバムの中のあなたらしきそれとは、一体何が違うのだろう。もちろん見かけがどんどん老いているのはそうだけれども、それ以外は特に差異は感じられないね。その当時の流行の服を着ていたり、かつてのイベントや行事が同時に背景になっていて懐かしく思い出しているかもしれない。でも、あなたは不思議なことに連続したあなたとして、その古いアルバムを見た瞬間に今再構築されているね。どんどんそのエピソードがあやふやになってしまっているのにも関わらず、なぜかある瞬間は鮮明に蘇るシーンがある。もちろんそれをあなたは昔のことだと思っているけれども、間違いなくそれは今生み出されている。それが証拠にそのアルバムを見返すまでは全くあなたの中にそれはなかったはずだ。そうやって過去の物語とされるものも間違いなく今その瞬間に生み出したものだ。

今しかない

アルバムは古い記憶だと思っているけれども、実はそのアルバムを見返すあなたは今でしかない。それの解釈は見返すたびに同じだと思っているけれども、少しずつ変化している。若い頃には写真を特になんとも思ってもなく、とりあえず撮っておくかという感じであっただろう。両親が旅行先で常にカメラを構える姿に、どこか滑稽な感情を抱いていた。それを今たまたま見返している。そんなときもあったなと軽い気持ちでページを次々とめくっている。そこではっとあなたはなにかに気づく。どれもこれも皆そうなるようになっていたということをね。あなたのアルバムなんて他の誰が見たところで、特別な意味はそこにはない。あなたもそう思っていたね。ところが、今となって記憶が薄れていくなかで思い出せるのと思い出せないのとごちゃまぜになったそれを見ている。なるほど、そういうことかとあなたは今深い納得が生まれているわけだ。