悲しみの向こう側
悲しみ
いろんなものが必ず変わっていく。久しぶりに訪れた懐かしの土地でさえ、面影を残しながらもどんどん生まれ変わっている。よく考えてみればあなたも同じだけ年を重ねているのだから仕方がないことだ。ところが、あなたはいつまでもあなたとして変わっていないと思い込んでいる。もちろん老いさらばえていっているのは認めるだろうし、そこで争ったりする気はない。そんなことよりも、もっと根本的な大事な芯の部分では何も変わってはいないと思っているね。でもそもそも街もモノも人もどんどん変わっているというのに、あなたの精神は微塵も変わっていないなんて言う事自体に無理がある。さらにあなたも同じように年を重ねてそれなりの身なりになってきているのでなおさら変化がないという方がおかしな話だね。
違和感
タイムスリップして今こうしてようやく再会できたような気分だ。少し話せば、懐かしいあの頃のままだ。そして思い出話に花が咲く。随分いろんなことがあっただろうけれども、そんなことは一瞬にして消えてなくなる。いつかの少年に戻ってしまうわけだ。ところが、しばらくしてその興奮と感動が落ち着き始める頃、あなたはほんの少しの違和感を感じるようになる。そう、あなたの世界ではなかったものが見え始めるからだね。あれ、こんな趣味いつから始めたのだろう、とか、ずっとこだわっていたものが見当たらなくなっているとか、きれい好きで完璧主義だったはずなのに、どうやらそうでもなくなってきたのか、もしくはそれができないようになってしまったのか、乱雑になったところに気がついてしまう。まぁ、それはお互いさまであってそれ自体を問い詰めたりする気は微塵にもない。けれども、再会したときの「あの頃のまま」というタイムスリップした感動から、現実にぐっと引き戻される瞬間でもあるね。
破壊
そうやって、あなたが固く信じた絆や心がどんどん綻んでしまうわけだけれども、それをあなたは悲しみとしてとらえている。もちろん慣れ親しみ、好きだったものが壊れていくさまは見ていて気分がいいものではない。でも、それがないと次の新たな何かが生まれる土壌もないわけだ。だから、破壊されたあとに創造が生まれ、それを繰り返しながら世代を繋いでいっているわけだね。同じ場所で100年前に誰がどんな話をしたかはあなたにはわからない。その場所で100年後誰が何を話しているかもあなたには想像もつかないね。あなたが寂しがっている思い出とやらは、せいぜいその範囲に浮かんだ幻影のようなものだ。その場所で浮かぶそれらはできればどんどん変わっていくことが、それぞれの時代を生きた証となるわけだね。変化を受け入れて、破壊の悲しみの向こう側の創造という希望を抱きながら今を生き抜こう。もう過去のあなたも友人もそこにはいないのだから。