仮想現実の夢
ワクワク
これほど情報が駆け巡る世界ではなかった頃、まだ見ぬ世界や体験にワクワクしたね。だから見てみたい、やってみたいという欲望がいくつも思いついた。ところが、外国の様子も、美味しそうな料理も、真新しいテーマパークも、瞬時にどんな様子かのレポートが続々とあなたのもとに届く。初めて目にしたときには、これは行かなきゃ、体験しなきゃと思っているうちに、やがてお腹いっぱいになって満足してしまうね。そんな毎日だから夢はなんですか、と聞かれることが怖くなっていくわけだ。もうほとんどあなたの記憶の中にあって、やりたいことや夢はそのデータベースにまだ記録されていない、真新しいなにかだからね。まだ何も知らない世界はどんどん減っていくし、ワクワクしてネットで調べているうちにネガティブなコメントすら目にしてしまうわけだ。それで毎回、ああやらないで良かったとホッと胸をなでおろして終わってしまう。
現実計算
その情報解像度が低ければ低いほど、ワクワクは持続する。もちろん推しのアイドルに会ってみたいとか、豪邸に住んでみたいとか、一度は思ったことがあるだろう。ところが現実にそれを叶えようと事前に調べてしまうから、そのコストやネガティブな意見も見てしまってうんざりしている。だから、情報をシャットアウトするのも大切かもしれないね。事前に調査や計算をしなければ失敗したり騙されたりして、損することになると恐れているだろう。だからワクワクできないんだよ。いや、正確にはワクワクは止まらないけれども、徐々に現実を知って失望することばかりを多くなってしまう。だから、あなたは知らず知らずのうちにワクワクすることを遠ざけるようになっている。そのせいで、何かやりたいことはないのか、という問いにもはやどう答えていいかわからないわけだ。
未体験
どうせ無理なことだと何度も思ってしまうことで、未体験なのに体験済みだと勘違いする世界がどんどん広がっていく。手のひらのスマホにはその情報源がたくさん詰まっている。過去の記憶が拡張されてどんどん肥大化してしまっているがために、もはやそれでいっぱいいっぱいだね。そのせいで、ぱっと感じたワクワクも、急速にその灯火を消されてしまう。だから知ることばかりで実際に手足を動かさない日々が当たり前になっている。そんな仮想現実のような世界で生きているから、後先考えずに夢中になる世界がどんどん遠ざかってしまって、もはや生きているのか死んでいるのかさえよくわからないわけだ。だからたまにはその慎重な下調べもなく、思い切って飛び込んでみるといいかもしれないね。手足を動かして実際に行動したその体験は、すっかり忘れかけていた次のワクワクを生み出してくれるに違いないよ。