老いる楽しみ
歴史
ずっと前からあるようで、実は最近できたものがたくさんあるね。たとえば日本食と呼ばれる和食文化なんかもそうだ。古代日本に暮らす人々が食べている料理を指すのだろうけれども、そもそも農耕定住生活が始まった歴史を振り返ると、人類の歴史から比べると随分と最近のことだね。しかも精製された白米を庶民が食べるようになったのはさらにあとのことだ。それなのに古来コメを食べる日本は健康的だとか、一汁一菜がいいとか思い込んでいる。人類はその時々で生活を狩猟採集生活や農耕定住生活へと変化したものの、野生というか本来の食事は昆虫や動物を狩猟し、ほとんどは木の実や果物を食べて暮らしていたのだろう。きちんと耕して田んぼにしてコメを作り出してそれを年貢や税として差し出していたなんていう期間は、その前史に比べるべくもなく短い。何をもってルーツとするのかは定義によるだろうけれども、野菜中心がいいとか肉食は避けるべきだとか、小麦よりもコメだとかそんな議論はほんの最近のことでしかないことを忘れないように注意しなければならない。
健康寿命
しかしながら、安定した食生活と清潔さを重視する社会システムによって、人々は従来の寿命を大幅に更新したとされている。確かに今では人生100年時代だと言われ、実際100歳を超える老人も珍しくはなくなってきたようだ。総じてこれまでよりも長い生きすることが良きことだとされ、その原因を探ろうとするわけだ。さらにはできれば最期の日まで元気に暮らしたいと言う欲望がそこに生まれるわけだ。確かに寝たきりになって身動きが取れないまま生きているよりも、自分の意思で体が動く方がいいと思うのは誰しもの願いだろう。けれども、そのほとんどは何かしらの不調を避けられず、入院したりすることも増えてしまう。それもこれも長生きすればこそのことであり、これらは避けようにも避けられないことでもある。いつまでも元気でいてほしいというのはあなたの周りの人々の思いであって、当の本人はもちろんそうしたいけれども、実際のところ老いていく様子はあなたが一番よくわかっているはずだ。
本能
とにかく少しでも元気で長生きできればいいなと思うのは、生存本能だから仕方がない。一方で病気や怪我で苦しみ続けている人は、痛みに耐えながらもいつまでこんな生活が続くのかと絶望的でもある。そのときにそれぞれの死生観が芽生えるわけだけれども、それは生きている実感を感じている唯一の機会でもあるね。元気なときにはそんな考えすら浮かばないわけだからね。あなたも病気になってちょっといつもと同じではない不自由な生活を強いられてこそ、初めて気がつくありがたさがあるわけだ。しかしながら、それは随分前からそうなることを知ってはいたわけだ。実際あなたもそうなるなんて夢にも思わなかったね。けれども徐々にその兆候は忍び寄っている。その影と友達になって、共に生きていくことがあなたの世界を大きくアップデートすることができる。人生がより深く、より温かく、そして奇跡だと気づき感謝することが多くなる。そうやって人はいわば成就していくわけだから、すべてを受け入れて今できることをやるしかないという境地に達するわけだよ。